仕事が終わっても気が抜けない。スマホ時代の「つながり疲れ」

「仕事終わったのに、なんかずっと気が張ってる」

お風呂に入っても、ご飯を食べても、ふとした瞬間に仕事のことが頭に浮かぶ。横になっても、スマホに通知が来るたびに反応してしまう——。

これは「仕事熱心すぎる」という話でも、「気持ちの切り替えが下手」という話でもありません。

スマホひとつで仕事とつながり続けられる現代特有の問題で、身体がオン/オフの切り替えができない状態になってしまってるかもしれません。

この記事では、仕事後も気が抜けないあなたに、毎日のお風呂の時間を「本当の終わり」にするための方法をお伝えします。

1. スマホが「仕事の終わり」をあいまいにする

数年前なら、物理的にお仕事はここまで、という境界線がありました。会社のPCを閉じれば、電話はオフィスにしかかかってこない。帰り道は「もう何も来ない時間」でした。

特にコロナ以降は、時代が圧倒的に変化しています。

スマホには仕事のメールが届き、チャットツールの通知が鳴り、深夜でもグループLINEが動いています。退勤後・休日・就寝前——物理的には仕事を離れていても、脳は「いつ何が来るかわからない」という待機状態になるそうです。

常時接続環境では、仕事と非仕事の境界が曖昧になり、心理的なデタッチメント(仕事からの切り離し)が困難になることが多くの研究で報告されている。— 産業・組織心理学の研究概要より

2. 在宅勤務やマネジメント職が私たちを窮屈にする

在宅勤務:「帰る」という儀式がない

オフィス勤務なら、帰宅=「仕事の終わり」というリセット時間になっていました。通勤中に少しずつ気持ちが離れ、家に着く頃には切り替わっている——という自然なプロセスです。

在宅勤務では、PCを閉じても空間が変わりません。直前まで仕事をしていた空間にいると、オン/オフの切り替えができずに、交感神経が優位の状態が続きやすくなります。

マネジメント職:「責任の終わり」がない

チームを束ねる立場では、時間外でも常に仕事のことを考えがちです。部下からの相談、急なトラブル、翌日のプレゼン——意識的にはリラックスしようとしていても、身体の自律神経は休息モードに入れていないことがあります。

「疲れているのに眠れない」「休んでも疲れが取れた気がしない」という感覚は、気持ちの切り替えスイッチが切り替えられず、気持ちが休まらない状態になるということもよくあることです。(*²)。

3. バスタイムを「今日の終わり」のスイッチにする

どんなにタスクに追われていても、気持ちの切り替えができるのが、毎日のバスタイム。

バスタイムには、いろんな切換えのスイッチが沢山そろっています。場所が変わる。服を脱ぐ。スマホを手放せる(手放す習慣をつければ)。温度変化が体温を動かす。そして——香りが嗅覚に届く。

これらの感覚的な変化を毎日繰り返すことで、シャワーを浴びるだけでも、1日の終わりに向かうスイッチになります。行動と状態を結びつけるこれらの行動は、自律神経の切り替えを助ける手段として、スポーツ心理学や行動療法の研究でも取り上げられています(*³)。

4. 香りが「切り替え」になる理由。嗅覚と自律神経の科学

感覚の中でも「香り」は特別な役割を持ちます。

嗅覚は五感のなかで唯一、感情・記憶・本能的な反応を司る大脳辺縁系に直接つながっています。視覚や聴覚の信号が大脳皮質(思考エリア)を経由するのに対し、香りの信号は思考を介さずに感情と記憶に影響します。

「この香りをかぐと落ち着く」という体験は、気のせいではありません。嗅覚を通じて感覚への直接的な働きかけが起きています。

杉精油・α-ピネンの研究報告

針葉樹(杉・ヒノキ・松など)の精油に含まれる揮発性成分「フィトンチッド」、なかでもα-ピネンは、嗅覚刺激を通じて自律神経活動に変化をもたらすことが複数の研究で報告されています。

国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所(2017年)は、α-ピネンの嗅覚刺激によって副交感神経活動が高まり、リラックス感が確認されたという研究結果を発表しています(*⁴)。また、千葉大学大学院の研究では、α-ピネンの嗅覚刺激が心拍変動・脳の酸化ヘモグロビン濃度に有意な影響を与えることが示されています(*⁵)。

「仕事終わりのお風呂で木の香りを吸い込む」という習慣は、単なる気分転換を超えた、嗅覚を通じた自律神経への働きかけという観点からも根拠があります。

5. 今日から始める。お風呂を「境界線」にする4つの習慣

難しいことはありません。すでにしているお風呂の時間に、意識をひとつ加えるだけです。

習慣① スマホをバスルームの外に置く

これが最も重要で、最も効果的です。意識的に情報から離れるという行動は、少しの時間でもOFFの意識へのシグナルになります。

通知が気になるなら、入浴中だけサイレントモードにするのも一つの方法です。

習慣② 同じ香りのシャンプーを毎日使う

「この香りが来たら今日は終わり」という習慣は、毎日同じ香りを使い続けることで形成されます。天然の木の精油が配合されたシャンプーを使い、シャワーを浴びながら香りを意識的に吸い込む。それだけで、嗅覚を通じて、「今日の終わり」の合図が同時に届きます。

習慣③ 入浴中は「今日うまくいったこと」だけを思い浮かべる

反省・明日のタスク・返信すべきメッセージ——バスタイムだけは、ここから意識的に離れましょう。湯船の中では、今日小さくてもうまくいったことだけを思い浮かべる。脳に「今日は終わった、悪くない一日だった」という信号を送る時間にします。

習慣④ お風呂上がり30分はスマホを見ない

お風呂で作った「切り替え」を定着させるために、上がった直後の30分だけスマホを手放してみてください。このバッファーが、身体が休息モードに移行するための時間になります。通知は30分後にまとめて確認すれば十分です。

まとめ

「仕事が終わっても気が抜けない」のは、意志の弱さでも性格の問題でもありません。スマホによる常時接続環境が、脳の「仕事の終わり」の感知を難しくしているからです。

お風呂の時間を「今日の終わり」を宣言する時間にする。スマホを外に置き、同じ香りを吸い込み、今日の小さな良かったことを思い浮かべる。この4つの習慣が、毎日のお風呂を、本当の意味での「リセット」の時間に変えていきます。

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参考文献・引用元

*¹ Ward AF et al.(2017)’Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity.’ Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), pp.140-154

*² 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」

*³ Sonnentag S(2012)’Psychological detachment from work during leisure time: The benefits of mentally disengaging from work.’ Current Directions in Psychological Science, 21(2), pp.114-118

*⁴ 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所(2017年)「木材由来のにおい成分α-ピネンは人をリラックスさせる」

*⁵ Ikei H, Song C, Miyazaki Y(2016)’Effects of olfactory stimulation by alpha-pinene on autonomic nervous activity.’ Journal of Wood Science, 62, pp.568-572