あなたが買っている「ウッディな香りのシャンプー」に、本物の精油は入っていますか?

ヒノキのお風呂に入った瞬間、ふっと肩の力が抜ける感覚。あれは気のせいではありません。

木の香りには、自律神経の活動に変化をもたらすことが研究で示されている揮発性成分が含まれており、その作用はさまざまな研究機関によって報告されています。

「ウッディな香りのシャンプーが好き」という方は多いですが、今使っているシャンプーの成分表を、最後にいつ確認しましたか?

じつは市場に流通する多くの「ウッディ系シャンプー」には、本物の木の精油が配合されていないことがほとんどです。この記事では、木の精油に含まれる「フィトンチッド」が注目される理由と、成分表示の正しい読み方を解説します。

1. 「森の香り」の正体。フィトンチッドという揮発性物質

「森の中を歩くと、なぜか頭がすっきりする」。そう感じたことはないでしょうか。

この感覚の正体のひとつが、フィトンチッドと呼ばれる植物由来の揮発性物質です。1928年にロシアの植物学者ボリス・トーキン博士によって発見されました。植物が外敵(菌・虫など)から身を守るために放出する成分であり、杉・ヒノキ・松といった針葉樹に特に多く含まれます。

フィトンチッドの主成分「α-ピネン」とは

フィトンチッドの主な成分は、テルペン類と呼ばれる揮発性有機化合物です。なかでも杉の精油に豊富に含まれるα-ピネン(アルファ・ピネン)は、近年の研究でその生理的な作用が注目されています。

農林水産省が紹介するフィトンチッドの研究データによると、森林空気を取り込むことによってストレスホルモン(コルチゾール)の変化や、血圧・心拍数への影響が報告されています(*¹)。「森林浴で気持ちが楽になる」という体験は、単なる気分の問題ではなく、身体の内側で起きている生理的な反応のひとつです。

2. α-ピネンと自律神経の関係。研究が示すこと

国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所は2017年、「木材由来のにおい成分α-ピネンは人をリラックスさせる」という研究結果を発表しました(*²)。

査読論文が示す、嗅覚と自律神経のつながり

千葉大学大学院の池井晴美氏らによる研究(2016年、国際誌 Journal of Wood Science 掲載)では、α-ピネンによる嗅覚刺激が、自律神経活動(心拍変動・脳の酸化ヘモグロビン濃度)に有意な影響を与えることが示されています(*³)。

「木の香りを嗅ぐ」という行為は、「なんとなく落ち着く」という感覚的な話ではなく、生理的な自律神経の変化が報告されている行為です。

スギ精油と睡眠に関する研究報告

東京大学名誉教授の谷田貝光克氏は養命酒製造との共同研究で、スギ精油に多く含まれるα-ピネンについて「入眠との関係を検討している」と述べています(*⁵)。

また、東邦大学の研究紹介によると、スギ(Cryptomeria japonica)の精油による嗅覚刺激が、気分変化と交感神経活動に影響を与えることを示した研究が報告されています(*⁴)。

仕事のプレッシャーや日々の疲れで交感神経が優位になりがちな状態のとき、「杉の香り」が持つはたらきかけは、決して小さくありません。

3. 成分表を確認してみてください。「Parfum」という表記の意味

ここで、手元のシャンプーの成分表を確認してみてください。

Parfum(パルファム)」または「Fragrance(フレグランス)」という表記はありますか?

この表記は、化粧品の全成分表示ルール(INCI名)において、複数の香料成分をひとまとめにした括り表記です。フィトンチッドの主成分であるテルペン類(α-ピネンなど)を含む本物の木の精油ではなく、「木っぽい香り」を石油化学由来の合成化合物で再現したものである場合がほとんどです。

合成香料は「香りの体験」を届けることができます。しかし、前述のフィトンチッドが持つ生理的な作用、つまり自律神経活動への影響が報告されているのは、テルペン類を含む天然精油の場合です。香りの体験と、成分のはたらきは、まったく別の話です。

本物の植物精油が入っている成分表の見分け方

本物の精油が配合されている場合、成分表には原料植物の名前が明記されます。表記のされ方は大きく2パターンあります。

① 英語のINCIルールに従った学名表記(国際基準)

精油INCI名(英語表記)
Cryptomeria Japonica Leaf Oil
ヒノキChamaecyparis Obtusa Leaf Oil
Pinus Sylvestris Leaf Oil

② 日本語で植物名を記した表記(日本の製品によく見られる)

精油日本語表記の例
スギ枝/葉油、スギ葉油
ヒノキヒノキ葉油、ヒノキ枝/葉油
マツ葉油、セイヨウアカマツ球果エキス

どちらの表記であれ、植物の名前が成分表に書かれていれば、それは天然の植物精油が配合されている証です。一方で「Parfum」「香料」という括り表記だけの場合、個々の植物名が確認できないため、天然精油かどうかは判断できません。

4. 「自社蒸留」という選択肢が生まれた理由

精油のほとんどは海外からの輸入品であり、産地・品質の管理をシャンプーの製造ブランドが完全にコントロールすることは難しいのが現状です。

そうした背景の中で、宮城県登米産の杉間伐材を原料に、国内で精油を自社蒸留しているブランドがあります。東北に自社の蒸留設備を持ち、素材の調達から抽出・配合まで一気通貫で管理しているシャンプーブランド「天然回帰」です。

水蒸気蒸留法で抽出された精油は、素材となる植物の膨大な量から、ごくわずかな量しか得られません。それだけ濃密な植物の揮発成分が、凝縮された形で閉じ込められています。自社蒸留という選択は、品質の再現性と透明性を担保するための、ひとつの誠実な答えです。

天然回帰のシャンプーの成分表を見ると、「スギ枝/葉油」という記載があります。これが自社蒸留した杉精油です。Parfumではなく、植物の学名。それが、本物の証です。

まとめ

ウッディな香りのシャンプーは、数多く市販されています。ただしその多くは、「Parfum」という成分表記の合成香料で香りが再現されており、フィトンチッドの生理的な作用を期待できるものとは異なります。

シャンプーを選ぶとき、成分表の学名をひとつ確認してみてください。木の名前がそこに書かれているものが、あなたのバスルームを、少しだけ森に近づけてくれるかもしれません。

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→「なぜ5月はやる気がわかないのか?|森の香りで深呼吸体験を!https://tennenkaiki.jp/contents/blog/blog-gogatubyou-sinrinyoku/

参考文献・引用元

*¹ 農林水産省「フィトンチッドについて」

*² 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所(2017年)「木材由来のにおい成分α-ピネンは人をリラックスさせる」

*³ Ikei H, Song C, Miyazaki Y(2016)”Effects of olfactory stimulation by α-pinene on autonomic nervous activity.” Journal of Wood Science, 62, pp.568–572

*⁴ 東邦大学 理学部「匂いと脳のストレス応答」(コラム)

*⁵ 養命酒製造株式会社「東大名誉教授にきく、森林浴の効果」(2022)